スウェーデンの毛皮産業を調べたら、哲学に行きついた話。

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  • 1980年代後半。バブルを迎えた日本では毛皮のコートが大流行していたそうですね。その名残か、我が家でも茶色と黒の毛皮のコートが使われることなく眠っています。

    もしかしたら、この記事を読んでくださっている方の中にも、一度は身に着けたことのあるという方がいらっしゃるかもしれませんね。

    欧米では、アニマルウェルフェア(動物福祉)が広がりを見せ、日本でも毛皮は時代にそぐわない印象を持たれることが増えたのではないでしょうか。

    私が暮らす、スウェーデンの毛皮事情を調べて行きついた哲学とは一体・・・?

「脱、毛皮」を宣言するスウェーデン企業

  • Fjällrävenのかばん

    画像提供:Fjällräven

  • 「脱、毛皮」を宣言するスウェーデン企業。その要因となっていることは何なのでしょうか?

    日本でも、数年前から人気がある、キツネがトレードマークの「kanken」(カンケン)のリュックサックを、一度は目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。

    カンケンリュックサックは、スウェーデン北部の小さな町エルンシェルツビクに生まれたアウトドアアパレルとアウトドア用品のブランドを扱うFjällräven社(ヒャルラーベン社)の代表的な商品です。

    このFjällräven社を始め、他にもスポーツ用品を扱うStadium(スタディアム)やPeak Performance(ピーク パフォーマンス)などのスウェーデン生まれの企業も衣料品に毛皮を使わないことを宣言しています(1)。

    スウェーデンのUNIQLOでおなじみ、スウェーデンを代表する衣料品メーカーのH&Mも2021年には完全ヴィ―ガンのコレクションを発表しています(2)。

  • 画像提供: H&M

  • では、なぜこのような動きが起きているのでしょうか?

    今回の記事で何度も言及しているDjurrättsalliansen(動物愛護同盟)によると、国を代表する衣料品メーカーが脱、毛皮宣言をするのには、動物愛護同盟による懸命な働きかけがあったようです・・・(1)。

    企業との対話や抗議活動など、働きかけは多岐に及びます。

    例えば、私が住んでいる街でも、たまに檻に閉じ込められたひどい状態の豚の写真を目にすることがあります。お恥ずかしながら、直視できず通り過ぎているのですが、これがキッカケで、悲惨な現実に目を向けることが出来るのは間違いありません。

    スウェーデン国民の多く、消費者が毛皮の使用に難色を示していることが大きいですが、そもそも、消費者が毛皮産業の問題点について知るきっかけを作っているのもこのような団体ということを考えると、地道な活動が世論を変え、多くの大企業を「実際に動かす」ことは特筆に値します。

     

  •  

     

  • さて、ここで気になるのが、日本はどうなのか。
    スウェーデンを含め、世界中の人を魅了してやまない、我らがUNIQLOはどうでしょうか?

    UNIQLOやGUを傘下に収めるファーストリテイリング社の「責任ある原材料調達」によると、2018年秋冬商品からリアルファーの使用を禁止(3)

    毛皮は使用が禁止されているようです。
    少し毛皮からは話がそれますが、アニマルウェルフェアの点で大きく関連しているのでご紹介させてください。

UNIQLOといえば、冬のマストアイテム、ウルトラライトダウンを始め、ダウンが有名ですよね。皆さんの中にも、愛用されている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そのダウンに関しては、以下のような取り決めがあるようです。

「ファーストリテイリングは、強制的に給餌した鳥から採取したり、鳥が生きている状態で引き抜いたダウンやフェザーの使用を禁止しています。2019年末時点で、ダウン商品の生産に携わるすべての取引先縫製工場がRDS(Responsible Down Standard)の認証を取得しており、以降もこの取り組みを継続しています。」

UNIQLOの「責任ある原材料調達」には、メリノウールやカシミヤなどの動物性の素材についても言及があります。

責任ある原材料調達(参照2024-02-05)
(https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/products/procurement.html)

暖かくて軽い、お手入れも簡単。その割にお手頃なため、スウェーデンでもUNIQLOのダウンを愛用している私ですが、ダウン(羽毛)については、一度も考えたことがなかった。

本当に、恥ずかしいです。
というのも、いくら大企業が取り決めたところで、実際は現場で働いている人たちに委ねられていることだから。

例えば、先ほどからお世話になっている、スウェーデンのDjurrättsalliansen(動物愛護同盟)は、2021年に優れた動物福祉をうたう食肉処理場を隠しカメラで撮影。実態は、理想とはかけ離れており、この調査結果が公表されたわずか 2 日後に、食肉処理場が閉鎖されています(1)。

言い訳に聞こえるかもしれませんが、横文字の「ダウン」は、コットンと同じような、ただの原料の一部としての響きがあるのではないでしょうか・・・。

画像提供: UNIQLO

上記の写真にもある、プレミアム「ダウン」を生産してくれているであろうアヒルやガチョウについて、少しだけ調べたところ、中国などのアジア諸国では、経費削減などのために、生きたまま羽をむしられて、また生えてきた羽がむしられて・・・という情報を見つけました・・・。

消費者として、「安ければいい。新しいものがいい。」と自分の欲を満たすことが、原料として処理された鳥たちに思いをはせることから遠ざけていたのかもしれません。

今回は、毛皮に関する記事ですが、ダウンは枕やジャケットに多く使われていて、とても身近だったので、こちらでご紹介させていただきました。

日本が先を行く。スウェーデンの毛皮農場事情。

  • 画像提供:Pixabay

  • 先ほどご紹介したように、毛皮を使用しない企業が増えているスウェーデン。

    実際に調べて、心の底から驚いたのですが、スウェーデンでは毛皮農場が禁止されていないのです・・・。

    「毛皮農場法規制」について、下記の地図を見て頂いたかるようにヨーロッパの多くの国が毛皮農場を禁止する中(4)、スウェーデンでは動物福祉要件の厳格化により、キツネとチンチラの毛皮農場は段階的に廃止され、現在は存在していないものの ミンクの毛皮農場の一時禁止は、一定の制限付きで2022年に解除されています(5)。

  • 提供: 世界の国と地域における毛皮に関する法規制(2023年9月時点 FFA作成/JAVA訳)

  • スウェーデン国内で、一体何が起きているのでしょうか?

    まず、スウェーデンのミンクの毛皮農場からの毛皮の大部分は輸出され、スウェーデンの店で販売されているキツネ、チンチラ、コヨーテ、ウサギなどの毛皮は輸入されているのが現状のようです。

ここで気になるのが、どうしてキツネとチンチラの毛皮農場は姿を消したのか。

最後のキツネの毛皮農場は 2001 年に閉鎖。最後のチンチラの毛皮農場も 2014 年に閉鎖され、農場に残っていた 243 頭のチンチラを一般家庭に引き取られています。

さて、農場閉鎖の原因となったのは、動物の飼育方法に関する規則の変更でした。たとえば、キツネには広い場所に穴を掘って他のキツネと一緒に過ごす機会を与えなければなりませんが、それでは利益にならないため、新しい要件が導入された後、農場は解体されました。

一方のミンクの毛皮農場はというと、過去20年以上で数は減ってはいるものの、いまだに約20もの毛皮農場が存在しています。

2021年1月末、コロナウイルスによるパンデミックを受けて、スウェーデンの26のうち23のミンクの毛皮農場において繁殖が禁止されたものの、一定の制限付きで2022年には解除されているのです。

当たり前ですが、世論調査では、スウェーデン国民の大多数が毛皮を得るためだけの飼育に反対していることが繰り返し示されています。しかし、経済的な利益が優先された結果、まだ完全な毛皮農場の禁止には、残念ながら至っていません(6)。

ところで、日本はどうなのでしょうか?

NPO法人アニマルライツセンターによると、2016年を最後に「日本の毛皮農場は姿を消した!」そうです(7)。

毛皮を着たい。本物のファーを身につけたい。というのは、ただの人間のエゴ。
そのために、劣悪な環境で生かされ、そして殺される。

スウェーデンの毛皮農場を調べる段階で、けがが化膿して見るに堪えない姿や、共食いをしていると思われるような写真に、やるせなさを感じ、気分が悪くなりました。

YouTubeには、スウェーデンのDjurrätts alliansen(動物愛護同盟)が現状を多くの人に知ってもらうために作成した、農場の様子を伝える動画もあるのですが、とても見ることができませんでした。

 

画像提供: Djurrättsalliansen

 

私は出来なかったのですが、現実に目を向ける勇気のある方には、スウェーデンのDjurrätts alliansen(動物愛護同盟)のウェブページを、ぜひご覧いただきたいです。

 

Pälsindustrin i Sverige(参照2024-02-05)|
https://djurrattsalliansen.se/djurens-situation/klader/minkfarmer/

 

日本が、そのような悲惨な悪夢から抜け出したかと思うと、あんどのため息が出ました。
本当に良かった・・・。

 

毛皮農場禁止の動きが、一つの地域、そして国へと広がり、人間の欲のためだけに生かされ殺される動物が絶滅することを祈るばかりです。

スウェーデン人が毛皮について思うこと。

  • 画像提供:Pixabay

  • ごぞんじの通り、動物の権利や動物愛護の関係から、動物性のものを一切口にしない、ヴィ―ガンという生き方を選ぶ人が多いスウェーデン。

    そんなスウェーデンの人たちは、毛皮についてどう思うのでしょうか?毛皮に賛成の人を含め、ネット上にあるさまざまな意見をご紹介します(8)。

【毛皮に反対】

「動物の尊厳を守るために、ヴィ―ガンになったので、革製品を始め、動物由来のものは使わいません。」

「毛皮に関して言えば、生産のあらゆる過程が純粋な動物虐待であり、まったく無意味だと思います。ウールもダウンも買わないでください。 中古の革ジャンなどを買う人もいるし、理論的にはそれでいいのかもしれないけど、私の気持ちとしては、死んだ動物の一部を持っているのは耐えられません。」

「毛皮が好きではないし、きれいだとも思わないから、使うこともありません。その毛皮の元となる動物は、悲惨な人生を歩んでいることが多いですし。でも、私は革製の乗馬靴を持っているし、馬具も革でできています。動物が元気な一生を過ごしていれば、死後は皮や毛皮を使ってもいいと考えています。」

「肉を食べるので、ちょっと変に思われるかもしれません。でも、本物の毛皮は持ってないし、今日の毛皮産業を擁護できません。お肉も、可能な限りスウェーデン産のものやジビエ(狩猟肉)を選んでいます。なぜなら、スウェーデンの自然の中で元気に暮らしていると思えるから。反対に革製品については、お肉として食べるなら牛や羊の皮を無駄なく使うのがいいと考えているし、私は個人的に革製品が好きです。」

 

【毛皮に賛成】

「私は動物に興味がないので、問題ないね。」

「毛皮と皮は実用的かつ経済的な目的で使用されていて、ミンクの毛皮農場は一定の機能を果たしています。彼らがいなくなれば、誰がと殺を行うのでしょうか?品質の点では、ウール、革、そして毛皮は非常に優れています。この再生が可能な資源を活用しない理由はありません。」

「私は毛皮、ダウンジャケット、革靴を持っているし、肉も食べます。正直に言うと、私は動物の苦しみよりも人間の苦しみの方が気になります。ー25度の中で、偽物の合成繊維の服を着なければならないのは、必要ないこと。人体に優しくありませんよね。」

「もちろん毛皮に賛成です。人々が太古の昔から行ってきたことです。地位の低い生き物は搾取されなければなりません。根絶されるべきではありませんが。私たちはこの母なる台地で支配的な存在であり、これを利用しないのは進化的に間違っています。何が問題ですか?」

  • 画像提供: Djurrättsalliansen

  • 反対派からは、動物が感じる痛みや悲しみにあふれた生涯に思いをはせ、人間の欲を満たすための暴虐は許さないというスタンスが感じられました。

    一方の賛成派は、動物は心を持たないと言わんばかりです。ただ、弱肉強食がよしとされる世界では当たり前の「定説」なのかもしれませんね。

    毛皮に反対と賛成、それぞれの意見をご紹介しました。
    みなさんは、どう思いますか?

哲学に行きついた。

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  • この「スウェーデンの毛皮産業を調べたら、哲学に行きついた話。」を書くにあたって、苦しい毎日が続きました。

    お気に入りのウルトラダウンが、こんなにも、鉛のように重くなるなんて。

    毎日のように、スウェーデンと日本の毛皮産業について調べる中で、できれば目にしたくない画像が飛び込んでくることもしばしば。

    みなさんの中にも、ミンクの毛皮農場の写真を目にし、驚きを隠せないまま、この宣言を読んでくださっている方もいるかもしれません。

    世界で唯一の被爆国として、そして植民地を持っていた国として、日本で育った者であれば、誰もが戦争の恐ろしさや虚しさについて深く学び、考える機会がありますよね。

    今回は、戦争について学んだ時のような、そんな気持ちになりました。

    原爆を象徴する「きのこ雲」と、バービーとをかけ合わせた「おもしろ画像」がアメリカではポジティブなものとして受け入れられた事実に、ショックを受けた方も多いのではないでしょうか。私もその内の一人で、はらわたが煮えくり返る思いをしました。

     

    「知らぬが仏」

     

    毛皮にされてきた動物の苦しみ。原爆の被害。

     

    そんなことは知らない。知りたくもない。
    知らないから、仏のように平静を保っていられるのかもしれません。

  • 人間が最強で、他の動物や自然は人間に仕え、搾取される存在なのでしょうか?

    薄々は気がついていても、見て見ぬふりをする大勢の人がいる。

    何事も知らぬが仏です。無関心でいれば、自分の心は穏やかで幸せかもしれません。でも、私たちの無関心が、誰かの幸せや命をも奪っていたら・・・?

    スウェーデンの毛皮産業を調べて私が行きついたのは、哲学でした。

参考文献

 

(1)About the Swedish animal rights organisation Djurrättsalliansen(参照2024-02-05)|Djurrätts alliansen
https://djurrattsalliansen.se/in-english/

(2)Co-exist Story(参照2024-02-05)|H&M
https://www2.hm.com/ja_jp/life/culture/inside-h-m/co-exist-peta-approved.html

(3)責任ある原材料調達(参照2024-02-05)|Fast retailing
https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/products/procurement.html

(4)いまだ1700万枚を超える世界のミンク毛皮生産量 毛皮反対の世論は高まっている(参照2024-02-05)|Sippo
https://sippo.asahi.com/article/15039168#:~:text

(5)Could fur farming be banned in the EU? Here’s which countries still support the industry(参照2024-02-05)|euronews.green
https://www.euronews.com/green/2023/06/16/fur-import-ban-could-be-dropped-in-the-uk-heres-which-eu-countries-still-support-the-indus#:~:text

(6)Pälsindustrin i Sverige(参照2024-02-05)|Djurrättsalliansen
https://djurrattsalliansen.se/djurens-situation/klader/minkfarmer/

(7)日本の毛皮農場がゼロに!2016年、毛皮のために犠牲になる動物は日本国内からなくなりました(参照2024-02-05)|NPO法人アニマルライツセンター
https://www.value-press.com/pressrelease/174406

(8)Flashback(参照2024-02-05)
https://www.flashback.org/t1330712

WRITER
    • kiyo
    • スウェーデン第二の都市Göteborgで、息子と夫と3人暮らし。「毎日、機嫌よく。」をモットーに育児&勉強中です。私の気づきや学びが、誰かの「日々の小さな幸せ」に繋がれば幸いです。

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